「ウィッグ」で大学教授からロックミュージシャンに変身! もう一人の自分《異日常》を楽しむ人生戦略【withコロナ】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「ウィッグ」で大学教授からロックミュージシャンに変身! もう一人の自分《異日常》を楽しむ人生戦略【withコロナ】

◼レッド・ツエッペリンのロバート・プラントのように

「レッド・ツェッペリン」時代(1975年)のロバート・プラント(Photo by Dina Regine / CC BY-SA 2.0)

 ———)楠木先生の「異日常」についてウィッグを着用することでどのように世界が変わりましたか?

 ●楠木)———私はもともと30年以上同じロックバンド活動をしていますが、30歳過ぎてすぐに髪の毛を失いました。「薄毛でロック」というのはあまり「食い合わせ」がよくないのです。
 演奏していてもちょっと「さみしいな」と思っていたんです。

 そこで、仕事でもアデランスさんと関わることもあり、自分でもウィッグを作りたくなったのです。同社は物作り志向が強く、フルカスタマイズの高級ウィッグを売り出しています。「オーダーメイドウィッグ」として顧客の要望で作ることができると知りました。私はレッド・ツェッペリンというロックバンド好きなのですが、ロバート・プラントっていう人がいるんです。髪の毛の長い人が。「ロバート・プラントのウィッグをその通りに作ってください」とオーダーすると、「本当にその通りになった」のです。

  ウィッグを着用してライブで演奏すると非常に気分がいいのです。ウィッグを着用すると演奏のパフォーマンスも5割増しになったと実感できました。自分の異日常のもう一人の分身「メタモルフォーゼ(変身)」願望も満たされ、さらに日常の専門であるビジネスの戦略としても面白いと考えるようにもなりました。

 これがハロウィンなどの仮装仕様として売っている例えば、3,980円の「おもちゃのウィッグ」だとダメなのです。これは翌日捨てる一過性のものであり、「非日常」なわけです。

 私にとってロックは、日常と異日常をしょっちゅう行ったり来たりするので、もちろん耐久性はなきゃダメだし、かつ本当に頻繁に使うものなので多少カスタマイズして値段がかかろうとも、ユーザーとして十分にペイすると。だからウィッグは本物でなければならないと考えました。

 つまり、これを俯瞰的に経済的に見ると、まったくそれまでなかった需要が生まれているということなのです。だから異日常で分身すれば、自分の気分も高まり、結果として総需要も増え、景気も良くなるという好循環です。

 これまでのウィッグは日常のものでしょう。男性であれば、ご使用されているほとんどの方は髪の毛に悩みをもっている。だからウィッグを着用するわけでしょう。そうすると、それは一つの日常だけで絶対に人前では外しませんよね。私の場合は、日常はこの頭で何十年も薄毛で問題なく、ただ異日常ではロングヘアへ。そしてまた日常の頭に戻るわけです。

次のページ日常と異日常の人生を切り替える強力なスイッチとしての髪型

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楠木 建

くすのき けん

一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻(ICS)教授。専攻は競争戦略。
1964年東京生まれ。92年、一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部専任講師、同大学同学部助教授、同大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、同大学大学院国際企業戦略研究科准教授を経て、2010年から現職。専門は競争戦略。主著に『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(東洋経済新報社)がある。
趣味は読書と映画と歌舞音曲。読書記録をtwitter (@kenkusunoki)で公開中。所属バンドはBluedogs。ジャンルはロック。担当楽器はベース。出演しているライブハウスはLive Gate Tokyo(恵比寿)

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